一味違った恋愛小説を探している人は居ませんか?西加奈子著「窓の魚」の読感

 

 

 

今回ご紹介するのはこちら

 

西加奈子著 「窓の魚」

 

◯本情報

初刊行は徳間書店により平成20年(2008年)6月とあります。内容(文庫本)は198ページと解説が8ページといった具合です。

系統でいうと恋愛群像劇系とでも言うのでしょう。

 

それでは、ネタバレしない程度に本筋の関わる部分に触れていきます。

◯基本情報

・主人公

ナツ

年齢 :28歳

性別 :女性

職業 :会社勤務

トウヤマ

年齢 :28歳

性別 :男性

職業 :バーテンダー

ハルナ

年齢 :不明

性別 :女性

職業 :キャバ嬢

アキオ

年齢 :30歳

性別 :男性

職業 :会社勤務

 

舞台 :温泉宿

 

あらすじ

裏表紙の触書では、

温泉宿で一夜を過ごす、2組の恋人たち。静かなナツ、優しいアキオ、可愛いハルナ、無関心なトウヤマ。裸の体で、秘密の心を抱えあう彼らはそれぞれに深刻な欠落を隠しあっていた。決して交わることなく、お互いを求め合う4人。そして翌朝、宿には一体の死体が発見される—恋という得体のしれない感情を、これまでにないほど奥深く、冷静な筆致でとらえた、新たな恋愛小説の臨界点。

とのこと。

話の構成は温泉宿での一夜のことを4人の目線で語っていて、章の合間に宿関係者の語りが挟まり、話の全体像を補完している形になります。

 

◯本書の成分

独断と偏見による本書の成分はこちらです。

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成分_窓の魚

 

―読後の感想―

 

◯個性的な男女4人

まず、主人公たちのキャラ設定が率直に良いなと思いました。ナツは自分を着飾ることを重要視しない自然体で素直な雰囲気があり、ハルナは物理的にも心理的にも着飾って本当の姿が見えない魅惑的な雰囲気があります。また、女将や入れ墨の女性までも魅力的に描かれて、西さんの観察眼の鋭さが存分に発揮されてる感じがしました。トウヤマは寡黙でたばこが似合うジャンキーなかっこよさがありますが時折少年のような振舞いを見せたりします。アキオはまんま少年のような無邪気な雰囲気を感じますがすべて読んだ上でもう一度読んでみるとまた違った印象があります。また、登場人物それぞれの目を向けるポイントや物事の捉え方にキャラらしさが出ていて、そこも面白かったですね。

 

◯過去と連なるその後の今

背表紙の触書にもある通り、登場人物は過去に起こった出来事で何かしらの欠落を抱えていて(もしくはずっと記憶や感情が拭えずついてまわって)、様々な形で引きずっています。

過去にあった出来事が良くも悪くもその人生に大きな影響を与えているのはよくある話ですが、それが表ににじみ出る個性みたいなものになって人生にまとわりついているようで、ぐっと引き込まれました。出来事の進行よりも独白的な雰囲気の語り口が多く書かれていたのも効果的だったのかもしれません。

主人公たちもいつかはその過去も受け入れ、決別するかもしれませんが、この小説では彼らがそれぞれの転換期にあったようにも思えます。今後それぞれの人生が暗転するにしても、好転するにしてもこの夜がきっかけになる、そんな気がします。

4人で温泉旅行と聞くと楽しげな感じがしますが、それぞれが抱える欠落でどこか薄暗いイメージが湧いて、旅館の雰囲気も相まって寂しげな印象がありました。また、主人公たちは自分の深い部分について打ち明けたりできず、変な距離感があって、一緒にいるはずなのに孤独感があるようにも感じました。

 

◯窓の魚

窓の魚というタイトルも小説の中の一要素としてだけでなく登場人物やその関係性を表しているようにも受け取れます。鑑賞される存在で、水槽の中でしか生きられず、どこか醜いところがあって、ガラスの檻で保護されているような人たち。ただ重ねているだけかもしれませんが。

 死体が見つかっているのにも関わらず、事件についての説明があるのは章の合間に挟まる旅館関係者の供述のようなものだけ。死体の発見というと物語の始まりみたいな感じがしますが、この小説ではそういう役割ではないんですよね。その役割は読者の解釈に委ねている、のでしょうか。

 

興味を持っていただけたら幸いです。

ぜひご一読を!

 

しばらく。でした。

 

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